路地裏


黒ネコは強い目をしていた


俺は望んで生まれて来た
でも誰も俺を望んじゃいなかった


黒ネコは雨の日に捨てられた


色とりどりの傘とネオンが
滲んで遠ざかるのは雨のせいだろう
涙じゃない
寒さに震えた


俺は望んでこの世界に来た
でも俺を受け入れる場所はなかった


黒ネコはビルに遮られた太陽に気付けなかった


俺の前の通りを歩く人々
ひとりの婦人は俺を「汚い」と言った
ひとりの母親は子供に「触っちゃだめよ」と言った


黒ネコはこの世界の醜さに唾を吐いた


俺は望んで生まれて来た
でもそれは間違っていた
俺は望んで死んでいく
誰も望んじゃいない
でも誰も悲しんじゃいない


黒ネコは雨の日に死んだ